先祖代々伝わってきた膨大な貸地を円満に相続
- 財産ドック
- 2025年11月10日
- 読了時間: 15分
更新日:2025年12月2日
Aさん・90歳/子1人(長男のみ・異母兄)
神奈川県にお住まいのAさんは、当時90歳で貸地を多数所有している大地主でした。初めからAさんと接点があったというわけではなく、Aさんの土地を借用している借地人Bさんの土地管理をしていたことがきっかけで、地主であるAさんと接点を持つようになったのです。
貸地の管理をすることになった旨をAさんにお伝えすると、「昔からある土地の借地人の管理も行ってほしい」と地主としての管理業務を依頼されるようになりました。借地人と地主側の双方の立場も同時に行えば、地代の支払いを受け取り、固定資産税を納める、といった流れがスムーズになります。Aさんはそれでは土地を自己管理していただくことよりも、今回の訪問が第三者に管理を依頼する良いきっかけとなったようでした。
土地管理を頼むなどの話が重なるうちに、Aさんが所有している資産について相談を受けるようになりました。すると、Bさんに貸している土地はほんの一部で、Aさんが2000坪の自宅敷地を20筆、2000坪もの膨大な土地を所有していて、その多数が貸地であることがわかりました。
土地はすべて自身で管理していたようですが、貸地の地代は直接借地人から現金を手渡しで受け取っているとのこと。管理している土地が多いこともあって、中には地代を滞納している借地人がいるにもかかわらず、督促ができていない借地や、初期から借地人が全く更新されていない借地もあり、管理が行き届いていない状況でした。
既に90歳のAさんは、それらの対処に悩みながらも、具体策を講じることができないままにいたのです。そこで弊社が地代の管理、滞納している借地人への対応、また、トラブル発生時の解決を担当し、膨大な土地の管理を実施。月に一度はAさんを訪ねて土地管理の当時の進捗報告を行うことになりました。
当時、既に90歳のAさんとのコミュニケーションは、もっぱら対面での会話です。Aさんを気の緩んだ、風情があって居心地よいことよりも、仕事とは関係のない他愛もない話をすることもしばしばでした。そんなAさんだったこともあり、相続の相談もごく自然な流れで始まりました。
Aさんの家族構成と財産構成
依頼主: Aさん(90歳)
家族構成: 亡妻・逝去、長男(70歳)、次女(62歳)、長女(65歳)、次男(67歳)
相続財産: 15億円
相続税額: 3億円
財産内訳: 土地(20筆)、建物、有価証券、現預金
Aさんは奥さんを数年前に亡くしているため、推定される相続人は、前妻の子1人、後妻の子3人です。相続対策として信託銀行で遺言書を作成してあり、法定相続分で遺産分割してもらうと決めているとのことでした。遺産分割の詳細や遺留分は決められていませんでしたが、4人の子どもたちには親であるAさんの資産の全容や遺言書の内容について明かしていないとのことでした。Aさん自身は、相続で自分の子たちが揉めることはないだろうという確信を持っていたからです。
Aさんはもともと不動産関係の仕事をしていたこともあり、数字に強く、多くの土地を含めて15億円を超える資産を持つ中で、子どもに課される予定の3億円あまりの相続税を自分で算出し、その納税資金についても、現預金でしっかり確保していたのです。その準備が争いを防ぐだろうという一つの根拠になっていたのでしょう。
しかし、Aさんの資産状況や相続人のことを考えれば、このまま相続が発生すると、高い確率で問題が起こってしまうことは明らかでした。
問題点1 土地が多い
Aさんの場合、土地に対する相続対策が十分ではありません。現預金で納税資金が確保されていたので、相続税対策や納税資金対策について大きな心配はいらなかったものの、土地の遺産分割で争う危険性があったのです。
相続において土地などの不動産はトラブルの火種です。土地の数が多いければ、誰がどう分割するかの話し合いで炎上してしまうことが考えられます。
なぜ土地の分割がうまくいかないのか、それは一つとして同じ土地というものがないからです。Aさんの場合でいえば、自宅敷地や更地、貸地を合わせて20筆もの土地を所有していました。4人で分割しようとして「5筆ずつにしよう」と単純に分けて平等になれば問題ありませんが、なかなかそうはいきません。
まず言うまでもなく土地はそれぞれ面積や形状が異なります。100坪、200坪とキリよく分割できる土地はそうそうありませんし、同じ形の土地などはこの世に一つも存在しません。面積の合計で大体平等に分割すればいいようにも思えますが、それだけで平等になることは難しいでしょう。なぜなら、その次に価格が問題となるからです。
土地には、「一物四価」と呼ばれ、土地の評価額を表すものとして、時価(実勢価格)、公示価格、路線価、固定資産税評価額の4つが使われています。相続税を算出するときには一般的には路線価が使用されますが、路線価は決められた通りに計算してしまうと画一的な評価にしかなりませんから、そこから土地の状況を踏まえて評価額を補正していかなければなりません。補正は専門家が知識や経験をもとに行うことで適正になされますが、専門家でも10人いれば10人とも違う評価額となるような複雑な計算が必要です。
たとえ熟練した専門家がすべての土地を適切に評価することができて、面積等も、合計の価格でも平等な分割を考えられたとしても、「本当に平等」に分けられるかと言われれば、必ずしもそうとは言い切れないのです。
今度は土地の利用価値という問題が浮上します。更地ならば利用しやすいかもしれませんが、がけ地のような形状の場合、使い道がかなり限られてしまいます。Aさんも実際にがけ地を幾つか所有されていました。相続税の中にはがけ地ならいらないと思う方もいるでしょう。その方にとっては、たとえがけ地がある程度の評価額になるとしても、ゼロに等しい価値なのです。
また、Aさんの90年目の自宅敷地の中には、長男の家も建てられていました。つまり、その自宅敷地は、すべてとはいいがたいまでも、ある程度の比率を長男が相続しないと長男にとって住み慣れた以外の人にとって使い勝手の悪い資産になってしまいます。とはいえ1000坪という広大な敷地ですから、それをそのまま長男が相続すると長男に対する公平性が損なわれてしまうことは避けられません。
面積、形状、価格、利用価値などを総合的に考えれば、一つも同じ土地がないことがわかってきます。どこか一つを見落としただけでも不平等感が出てしまい、揉めてしまうことがあるのが遺産分割です。多くの土地を相続財産にるる場合、トラブルを起こさないようにするには、土地一つひとつの適正な価値を計算し、分割時の組み合わせについて時間をかけて決めていかなければなりません。
そこで、時間が必要となります。土地の価格を算出するだけでも、現地調査や役所調査などによってかなりの時間を費やすこともあるので、相続が発生してから相続税の納税期限までの10ヶ月間ですべてを問題なく終わらせるのは、実際的には難しいことでしょう。土地の分割方法が決まっていなければ、20筆もの土地の価値や分割方法を一から考えていくことに難儀してしまいます。なぜなら、その次に価格が問題となるからです。
Aさんの場合、多くの土地を所有しているには時間が少なすぎるのです。
問題点2 貸地(底地)が多い
土地の中では、貸地はその処分や整理が難しいと言われている資産です。Aさんの場合、貸地が15筆もあったことも問題を起こす原因と考えられました。
貸地には必ず借地人がいます。それが足枷となり処分しようにも言い手が付きづらく、駐車場にするなど別の活用方法を考えても、借地人と話し合って、立ち退くことに納得してもらわないことには何もできません。定期借地権であれば更新規定の適用を受けないで済み、契約終了のタイミングを見計らえばいいのですが、そうでないれば何らかの対策を講じにくいと活用は難しいことになります。
利用しにくい貸地を相続しようと思う相続人は少ないと思いますが、それにもよらず、土地という不動産である以上一定の評価額があり、相続税をかさ上げする資産なので、相続においては不良資産と呼ばれているのです。
貸地を整理する方法もいくつかありますが、時間を要します。Aさんの場合、多くの貸地がすぐに売却できるような立地でもなかったことや、場所によってはある程度の収益性があったことから、子どもたちが分担して相続する方がいいと判断しました。
貸地を分担するにあたって考えるべき要素に、土地の収益性があります。地代をもらって固定資産税を支払ったときの手残りが、意図せずに誰かが極端に多いとなれば不公平ですから、収益性でも納得し合えるという視点が必要です。貸地の場合は他にも、その土地の借用人の素行や人柄などを気にする人も出てくるでしょう。滞納しがちで横暴な借地人よりも、確実に地代を支払ってくれる誠実な借地人を通常は望むはずです。
貸地のこれらの要素は土地の価値につながってくることなので、更地としての土地の価値を算出すると同時に、収益性や借地人の条件をプラスして考えていくことが必要になるのです。
解決案1 相続人だけでじっくり話し合う場を設ける
Aさんのケースでは、借地を含む多くの土地を、4人の相続人たちがうまく分割できるかどうかが円満な相続のための最も重要なポイントでした。
最初に行ったことは、相続人となる子ども4人に集まってもらい、遺産分割について話し合いしてもらうことでした。Aさんはまだお元気とはいえ、その頃で既に92歳であり、年齢からしていつ何も起こってもおかしくなかったのです。まだ何も起こっていない今のうちに集まってもらい、相続人に相続について意識してもらうことから始めて、相続が起こった場合、いつまでに何をしていかなければならないかをここで説明しました。そしてこの段階で皆さんと「ある約束」を取り付けました。その約束とは、「この遺産分割はきょうだい間の話なので、それ以外の人を関わらせることはしないでください」というものです。
相続では揉めるパターンとして相続や求めるパターンとして、相続人の配偶者など第三者からの口出しがあります。奥さんやいる相続人だったら、奥さんから「学費等で家計が大変だから、少しでも多くの遺産をもらうようにお願いしてほしい」と圧力をかけられて従ってしまうことも実は多いのです。
しかし、このような第三者からの働きかけは往々にして良い結果を招きません。相続をコーディネートする立場の人が、早々に第三者の存在を排除していかないといけません。
約束を取り付けた後、きょうだいで遺産分割について話し合いを進める段階に入っていきます。初めは本人たちだけで話し合う様子を見守っていました。すると、きょうだい間の関係性が見えてきます。唯一、母の違う長男が、他の3人から攻められるような、不利な立場だったのです。父の敷地で暮らしていたことや、一軒家を建てるときに父から受け取った援助金のことを持ち出され、3対1と不利な構図になっていました。
異母きょうだいがいるというのも、相続では揉めやすいパターンの一つです。そもそも普通のきょうだいでさえ相続では揉めることが多いのに、異母きょうだいであれば余計に考え方も立場も異なってきますので、意思疎通が難しくなります。
ちなみに、最も厄介なのは相続発生後に隠し子がいたと判明したときです。隠し子の存在を知らされていない場合、突如として現れたことによる相続人の心理的なショックは非常に大きいものです。さらに隠し子から「私にも遺産をもらう権利がある」と主張されるような事態になれば、その影響は大きなものになります。
それに比べれば、Aさんのケースでは既に皆が異母きょうだいの存在を知っていましたし、長い付き合いでもあることが、まだ冷静に話し合える土壌を作っていたとも思います。
いろいろと指摘される中で長男は変に卑屈にはならず、他のきょうだいに「学費や結婚費用などの援助をしてもらっていただろう」と反論することができました。
きょうだい間の話し合いが煮詰まってきたところで、あえて長男に「すべての財産を一 人で受け取るというのはどうでしょうか?」と提案しました。親であるAさん の面影を一番見ていたのは長男だったこともあり、そんな長男が一体どうしたいのか、どう考えているのかを、しっかり聞き出して皆に共有するためでした。すると、長男は「すべてを貰うのは困る」と答えます。話を聞くと、相続できょうだいと長年揉めている知人がいるらしく、そのようなことにはなりたくないから、皆で納得するような分割にしたいとかねてから望んでいたというのです。
今回の場合は長男の意志が大きなきっかけになりましたが、キーパーソンの意見を聞き出せると、一体感が生まれてみんなどうまく分割できる方法を考えていくという空気ができてきます。分割の割合では、父の面倒を見ていたのだから長男に多くするという前提条件も、皆不満を言わず納得してくれました。
解決策2 複数のシミュレーションを提示し、落としどころを作る
話し合いのスタンスや場が整ってきたところで、問題の土地の分割方法について話し合いを進めます。こちらからは複数のシミュレーションを提示しました。数が多かったこと もあって分割案は10を超えています。時間にも時間はかかりましたが、確認する方も大変だったことでしょう。そのシミュレーションでも課題の中心は、4人それぞれが相続する土地の住所、地代、現況、価格、借地であれば底地の地代収入、固定資産税もひと目でわかるように記載しています。
価格は、固定資産税評価額、路線価、公示価格(更地として考えた場合の価格)などいくつかの種類で算出し、4人がどのような土地をどのような価値で、どの程度の按分割合で受け取るかをわかりやすく明記しておきました。すべてをはっきりリスト化しておいたのは、あとから難癖をつけるということをなくすためでもあります。
6回を超える打ち合わせの中で、最終的に以下のような按分割合で分割を決定することができました。土地評価としての割合はやや長男が多い程度でしたが、地代収入に関しては長男が半分以上の割合を占めるような分割案でした。地代収入が高い貸地が長男に集まったのは、その貸地が単年契約であることや、借地人の契約や管理に手間が かかるといった理由がありました。また、長男本人としても、なるべく多くの父の仕事を引き継ぎたいという意志もあったためです。
地代収入に大きな差が出てしまったのは確かですが、「落としどころ」としては非常に妥当な分割案でした。さらにダメ押しで長男以外の3人が納得するような「ある隠し玉」を用意しました。長男に「この按分案で納得してくれたら、父の葬祭費用をすべて負担する」と他のきょうだいに宣言するように助言したのです。
葬祭費用というのは、いろいろなところで費用が発生します。主に葬儀社への支払いか ら、お布施、読経料、戒名料、会葬礼状、香典返しなどがあります。葬式以降も、初七日、四十九日、一周忌、三回忌などの法要があり、その都度諸費用がかかります。地元で知ら れる名家などであれば、それらの額は必然的に高額にならざるを得ませんから、負担する
金額やその出所について、実はきょうだい全員が気にかかっていたことでした。さらには、何らかの費用がかかるたびに相談して4人で4分の1ずつ負担していくというのも手間ですし、たとえ親の葬祭であっても全員が同じ価値観を持っているとも限りません。
平等に意見が言い合える余地を残すとかえって争いの元を増やしてしまうこともあるのです。
そこで遺産の取り分の多い長男が葬祭費用全般について負担するということにすれば、他の3人 の金銭的、精神的負担が軽減されます。
その隠し玉が決め手となったこともあって、最終的に皆が納得する形で話し合いを収めることができました。
Aさんに提示した分割方法のシミュレーション(イメージ)
公示価格での按分
金額 | 按分割合 | 取引想定価格按分 | |
長男 | 296,367,007 | 30% | 387,985,481 |
長女 | 246,972,506 | 25% | 360,272,232 |
次男 | 227,214,705 | 23% | 318,702,359 |
次女 | 217,335,804 | 22% | 318,702,359 |
合計 | 987,890,022 | 100% | 1,385,662,431 |
地代収入
地代収入 | 按分割合 | 固定資産税等 | |
長男 | 38,860,108 | 47% | 1,981,183 |
長女 | 16,536,216 | 20% | 968,578 |
次男 | 14,055,784 | 17% | 792,473 |
次女 | 13,228,973 | 16% | 660,394 |
合計 | 82,681,081 | 100% | 4,402,628 |
相続に対する思いを支えた遺言書と信頼関係
相続はAさんと出会ってから8年後に発生しました。Aさんが亡くなる3年くらい前から即続人となる子どもたちと土地の分割方法を考えられていたこともあって、相続は特に問題が起こることなく無事に終了しました。
分割がうまくいったのには、早期に分割案を提示したこと以外にも理由があります。
まずは遺言書です。信託銀行で作っていた遺言書を撤回し、新しい遺言書を作成していたことも円満な相続に一役買っていたことでしょう。撤回前の遺言書では、遺産について法定相続分で分割するとしか書かれていませんでしたが、そのままではAさんの遺志は伝わりづらかったはずです。新しく作った遺言書では、2点内容を追加しました。一つは、異母きょうだいとして立場が弱かった長男を執行者として指定したこと。もう一つは、長男を中心 に皆で争わずに遺産分割してほしいという付言を追加しておいたこと、です。
これだけの資産の遺産分割において、全員が心の底から納得するということは難しいことでしょう。誰もが何かしら小さく細かい不満を募らせることは仕方 のないことだと思います。しかしそれでも最後の最後までお互いに配慮し合えたのはこの遺言書の存在が大きかったことでしょう。
さらに、全般的に相続をうまく収めることができたのは、その8年の間にAさんと信頼関係を築くことができたからだと思っています。当初こそ相続の話はありませんでしたが、いろいろな話をする中で、お互いの気持ちを知ることができたので相続を任せていただけました。そして父であるAさんが信頼してくださったからこそ、子どもたちからも信頼 を得るこがができて、話し合いをうまく進められたとも考えられます。もし、子どもの中 の一人でも別の弁護士や税理士を連れてくるようなことがあったら、それによって話し合いは長引いたことでしょうし、どこかで決裂していたとしてもおかしくはありません。
最近では相続案件に得意な税理士事務所などが、都心でセミナーや勉強会を頻繁に 行うなど宣伝していますが、地域密着型の不動産会社は、その地域の不動産の特性を把握し尽くしています。何より近くにいた方が何度も顔を合わせて会話をすることができ、お互いに信頼関係を築きやすいというメリットもあるのです。
相続対策は、いざ相続が発生してからでは最善策を立てることが難しくなります。じっくりと向き合って話し合える存在を見つけるというのは、相続を無事に終わらせるために 必要なことだと言えるでしょう。
「税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策」財産ドック著 - 幻冬舎刊より



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